知的障害とは?
厚生労働省では、知的障害とは知的機能の障害が発達期(おおむね18歳まで)に現れ、日常生活に支障が生じているために何らかの援助が必要としている状態にあるもの」と定義しており、下記の3つの基準から判断されます。
- 知的機能、すなわち知能指数(IQ)が70以下の状態であること。
- 社会生活に関わる機能(適応機能)や行動に制限や成約が伴う状態であること。
- これらの状態が発達期(一般的には18歳以前)に生じること。
厚生労働省はこのように定義していますが、実際のところは国際的に統一された定義はなく、いくつかの機関が独自に判断基準を出しているのが現状です。それぞれ違いがある中で、どの基準も知的能力の低下だけではなく社会生活での不自由さという側面を重視している点で共通しています。
知能とは?
ここで知的障害で扱われる知能について少し解説いたします。
知能とは、特定の能力ではなく、各個人が目的に対して合理的に行動し、自分の環境を能率的に処理するための総合的な能力のことを表します。そのため、いわゆるIQに代表されるような知的能力は、知能の一側面にすぎないということができます。
実際、知的障害の判断をする場合は、下記の2つの側面が考慮されます。
知的能力
読み書きや計算などの能力だけではなく、抽象的なことや論理的に思考すること、自分自身の考えをまとめること、予測や計画を立てるなど、思考するために必要な能力のことです。一般的に、様々な検査を通じて知能指数(IQ)で表現されます。
適応能力
社会やコミュニティをはじめとした集団の中でルールを守る、集団の中で自分の役割を担当する、関わる人との円滑な関係を築くなど、社会を含めた集団生活の中で発揮される能力のことです。
ポイント
つまり、知的障害とは、知的能力の発達が遅れているということだけを重視するのではなく、社会への適応能力も含めた発達の遅れ(18歳以前にみられる)で、生活が困難になっている状態に対して診断が行われます。そのため、知能指数が低かったとしても適応能力がある場合、知的障害ではありません。
名前から誤解を招きやすいのですが、IQがすべてではないという点が大きなポイントです。
特徴
程度ごとの分類
知的障害は、症状の程度によって「軽度」「中等度」「重度」「最重度」の4段階に分類されます。
厚生労働省では、IQと合わせて日常生活能力水準(前述の適応能力にあたる指標)a〜dを含めて次のような、判定基準を表しています。
それぞれの特徴
それぞれについて、DSM-5では分類ごとの特徴を「概念的領域」「社会的領域」「実用的領域」の3つの領域で示しています。
少し長文で難解な表現もありますが、引用いたします。
各領域の意味は下記のようになります。
・概念的領域:他者との意思の交換、読み書き、お金の概念、自己管理など
・社会的領域:対人関係スキル、規則や法を守ること、余暇活動など
・実用的領域:身辺自立、乗り物などの社会的資源の活用、健康維持、安全な環境の維持など
軽度(4度)
概念的領域
就学前の子ども達において、明らかな概念的な差はないかもしれない。学齢期の子どもおよび成人においては、読字、書字、算数、時間または金銭などの学習技能を身につけることが困難であり、年齢相応に期待されるものを満たすために、1つ以上の領域で支援を必要とする。
成人においては、学習技能(読字、金銭管理など)の機能的な使用と同様に、抽象的思考、実行機能(すなわち計画、戦略、優先順位の設定および認知的柔軟性)、および短期記憶が障害される。同年代と比べて、問題およびその解決法に対して、若干固定化された取り組みが見られる。
社会的領域
定形発達の同年代に比べて、対人的相互反応において未熟である。例えば、仲間の社会的な合図を正確に理解することが難しいかもしれない。コミュニケーション、会話、および言語は年齢相応に期待されるよりも固定化されているか未熟である。年齢に応じた方法で情動や行動を制御することが困難であるかもしれない。
この困難は社会的状況において仲間によって気づかれる。社会的な状況における危険性の理解は限られている。
社会的な判断は年齢に比して未熟であり、そのため他人に操作される危険性(だまされやすさ)がある。
実用的領域
身のまわりの世話は年齢相応に機能するかもしれない。
同年代と比べて、複雑な日常生活上の課題ではいくらかの支援を必要とする。成人期において、支援は通常、食料品の買い物、輸送手段、家事および子育ての調整、栄養に富んだ食事の準備、および銀行取引や金銭管理を含む。娯楽技能は同年代の者たちと同等であるが、娯楽に関する福利や組織についての判断には支援を要する。
成人期には、競争して、概念的な技能に重点をおかない職業に雇用されることがしばしば見られる。一般に、健康管理上の決断や法的な決断を下すこと、および技能を要する仕事をうまくこなせるようになることには支援を必要とする。子育てに一般的に支援が必要である。
中等度(3度)
概念的領域
発達期を通してずっと、個人の概念的な能力は同年代の人と比べて明らかに遅れる。
学齢期前のこどもにおいては言語および就学前技能はゆっくりと発達する。学齢期の子ども達において、読字、書字、算数、および時間や金銭の理解や発達は学齢期を通してゆっくりであり、同年代の発達と比べると明らかに制限される。
成人において、学習技能の発達は通常、初等教育の水準であり、仕事や私生活における学習技能の応用のすべてに支援が必要である。
1日の単位で、継続的に援助することが毎日の生活の概念的な課題を達成するために必要であり、他の人がその責任を完全に引き受けてしまうかもしれない。
社会的領域
社会的行動およびコミュニケーション行動において、発達機を通じて同年代と明らかな違いを示す。
話し言葉は社会的コミュニケーションにおいて通常、第一手段であるが、仲間達と比べてはるかに単純である。人間関係の能力は家族や友人との関係において明らかとなり、障害を通してよい友人関係をもつかもしれないし、時には成人期に恋愛関係をもつこともある。
しかし、社会的な合図を正確に理解、あるいは解釈できないかもしれない。社会的な判断能力および意思決定能力は限られており、人生の決断をするのを支援者が手伝わなければならない。
定型発達の仲間との友情はしばしばコミュニケーションまたは社会的な制限によって影響を受ける。職場でうまくやっていくためには、社会的およびコミュニケーションにおけるかなりの支援が必要である。
実用的領域
成人として食事、身支度、排泄、および衛生といったみのまわりのことを行うことが可能であるが、これらの領域で自立するには、長期間の指導と時間が必要であり、何度も注意喚起が必要となるかもしれない。
同様に、すべての家事への参加が成人期までに達成されるかもしれないが、長期間の指導が必要であり、成人レベルのできばえを得るのは継続的な支援が通常必要となるであろう。概念的およびコミュニケーション技能の必要性が限定的な仕事には自立して就労できるだろうが、社会的な期待、仕事の複雑さ、および計画、輸送手段、健康上の利益、金銭管理などのそれに付随した責任を果たすためには、同僚、監督者およびその他の人によるかなりの支援が必要である。
さまざまな娯楽に関する技能は発達しうる。通常、これらの能力は長期にわたるさらなる支援や学習機会を必要とする。不適応行動がごく少数に現れ、社会的な問題を引き起こす。
重度(2度)
概念的領域
概念的な能力の獲得は限られている。通常、書かれた言葉、または数、量、時間、および金銭などの概念を理解できない。世話する人は、障害を通して問題解決にあたって広範囲に及ぶ支援を提供する。
社会的領域
話し言葉は語彙および文法に関してかなり限られる。会話は単語あるいは句であることもあれば、増補的な手段で付け足されるかもしれない。会話およびコミュニケーションは毎日の出来事のうち、今この場に焦点が当てられる。
言語は解説よりも社会的コミュニケーションのために用いられる。単純な会話と身振りによるコミュニケーションを理解している。家族や親しい人との関係は楽しみや支援の源泉である。
実用的領域
食事、身支度、入浴、および排泄を含むすべての日常生活上の行動に援助を必要とする。常に監督が必要である。自分自身あるいは他人の福利に関して責任ある決定をできない。
成人期において、家族での課題、娯楽、およびしごとへの参加には、継続的な支援および手助けを必要とする。すべての領域における技能の習得には、長期の教育と継続的な支援を要する。自傷行為を含む不適応行動は、少数であるが意味のある数として存在する。
最重度(1度)
概念的領域
概念的な技能は通常、記号処理よりもむしろ物理的世界に関するものである。
自己管理、仕事、および娯楽において目標思考的な方法で物を使用するかもしれない。物理的特徴に基づいた称号や分類など、視空間技能が習得されるかもしれない。しかし、運動と感覚の障害が併発していると、物の機能的な使用を妨げるかもしれない。
社会的領域
会話や身振りにおける企業的コミュニケーションの理解は非常に限られている。いくつかの単純な支持や身振りを理解するかもしれない。自分の欲求や感情の大部分を非言語的および非記号的コミュニケーションを通して表現する。
よく知っている家族、世話する人、および親しい人との関係を楽しみ、身振りおよび感情による合図を通して、対人的相互反応を開始し、反応する。身体および感覚の障害が併発していると、多くの社会的な活動が妨げられるかもしれない。
実用的領域
日常的な身体の世話、健康、および安全のすべての面において他者に依存するが、これらの活動の一部にかかわることが可能なことがあるかもしれない。
重度の身体的障害がなければ、食事をテーブルに運ぶと言った家庭での日常業務のいくつかを手伝うこともある。物を使った単純な行動は、いくらかの職業活動参加への基盤となるかもしれないが、それは高水準な継続的な支援を伴った場合である。
娯楽的な活動は、例えば音楽鑑賞、映画鑑賞、散歩、あるいは水遊びへの参加などもありうるが、すべてで他者の支援を必要とする。身体および感覚の障害を併発すると、しばしば家庭的、娯楽的、および職業的な活動へ参加すること(見ているだけではない)の障壁となる。
不適応行動が、少数ではあるが意味のある数として存在する。
引用元:DSM-5 精神疾患の分類と診断の手引 p19-p21より(改行あり)
参考
・「知的障害のことがよくわかる本 有馬正高/監修 (健康ライブラリーイラスト版)」
・知的障害児(者)基礎調査:調査の結果
・DSM-5 精神疾患の分類と診断の手引