2020年2月1日(土)に一般社団法人障害者就労支援協会で開催されたイベント「コラボ企画:発達障害の特性に合わせた働き方 西出光×アッピー 松﨑玉美×コンフィデンス日本橋」が開催されました。
本記事は、イベント後半に行われました対談(前半はお二人による講演でした)を抜粋したものです。
出演者
西出光
大手企業に入社後うつ病を発症し、同時に発達障害(ADHD)と知る。現在は生きづらさを抱えた当事者に取材を行い、同じ悩みを持った方の相談を受けたり講演会の実施やメディア出演を行う。
松崎玉美
発達障害ADHD(注意欠如・多動性)当事者。統合失調症などの様々な心の病を発病し、闘病生活を送り度重なる自殺未遂により精神科への入院を繰り返した経験あり。現在は改善し闘病生活の中で思い描いた当事者側に立った理想のコンサルティングサロンを作りたいと願いアッピーを起業。
発達障害との関わり方や向き合い方
田中:ここまでのお二人(西出、松崎)の話の中で、障害特性に対して、「治した」とか「意識的に自分が働きかけて改善をした」という文脈がありました。世の中的には、障害を治すという感覚に疑問符を持つ方もいるのではないかと思ったので、その辺をもう少しお話しいただいてもよろしいですか?
松崎:もちろん発達障害は、治る治らないで言ったら治らないですね。脳の問題なんで。しかし、統合失調症は、心の病です。私はリストカットや買い物依存症がありました。
私見ですが、ADHDの方って心の病になりやすいんですよね。特に依存症になりやすいと思います。心の病は、治る治らないで言ったら治せます。なので、どうやって付き合っていくかっていうと、まず初めに発達障害の特性を自分で知ることが大切だと思います。
私はハッピーコンサルティングの中で自身の特性をチェックして頂いています。自分の障害特性に対して、どう意識・工夫すればいいのか、をお伝えするチェックシートがあるので、そういったツールを使って頂いています。そして、自分なりの対処法が確立できれば、自信が付き、少しずつ障害の特性が改善していくと感じております。
アッピーでは、結局どういう人生を送ってきて自信が無くなってしまったのか、という部分の原因をなくして、自信をつけてしまえば、本人の状態はよくなると考えています。一般的に皆さんは、表出された結果の方に意識が向くと思います。つまり特性や症状が辛いと考えるのですが、着目すべき点は、自信をなくした原因なんです。
私は、まず自信をつけるために、出来る事を一緒に探します。今すぐ出来る事を自信が無いままで良いから、まず何か一緒にやってみる。一人だとどうしても大変だし、どこの点に対して努力すればいいのか分からないと思うので、私はそこでできるだけサポートをしています。
田中:ありがとうございます。西出さんはいかがですか?
西出:そうですね。おっしゃる通り発達障害は、脳の問題なので治らないのは間違いない。間違いないのは前提なんですけれど、障害を障害と感じない工夫は出来る可能性はありますね。
例えば、車椅子の人は階段に登れないので上に上がること出来ないんですけれど、エレベーターという環境があれば、問題なく上に上がって移動することが出来ると思います。そうすれば例え車椅子でもエレベーターがあれば移動できるから、そういう意味では障害がないっていう風に言えます。
考えるのは、車椅子の人が歩くことではなく、どうすれば移動できるようになるのか、だと思います。つまり、いかに「こうすれば障害を感じない」という風にしていくことが大事なのかなと思います。
障害を客観視することについて
田中:お二人の障害に対する考え方や向き合い方が客観的だな、と思いながらお話を伺っていました。元々、自分を客観視するのは得意だったんですか?
松崎:客観視っていう部分では、統合失調症の病の時からあったのかも知れませんね。自分も患者だったけれど、精神科へ入院した際に知り合った色んな方達を「どうにか救ってあげたい」「出来ることは何でもしてあげたい」っていう支援者側の目線もあったんですね。
そういう意味では客観視していたかもしれないです。私の特性として、とにかく脳の多動が強いので、自分のことを思いつつ、別の場所で客観視している自分がいるみたいな。
なので、常に頭の中がグルグル回っていて色んなところに、自分が飛んでいるような感じがしています。NLPセラピーの中で「ディソシエイト(物事を客観視している状態)」と「アソシエイト(物事を主観的に見ている状態)」があるんですけど、そういったものを使って客観視出来るように努めています。
田中:ありがとうございます。光さんは自分のことをどう客観視していますか?
西出:僕の場合は奥さんである弥加が、まず僕のうまくいかないことの何が原因かを教えてくれたので、自分で気付いたというよりは他の第三者に教えてもらったから、そういう意味で客観的に、自分に気付くことが出来たのかなとは思いますね。自分のことを把握している他者がいるっていうことが、僕の場合は助けになりました。
発達障害の特性を周囲の人から言われることについて
田中:会社で働いていて、同僚や上司から「ちょっと何かおかしいんじゃない」「何か検査受けたほうが良いかも」って言われることについては、どう感じますか?そもそも、そのようにアプローチされるのは気分が悪いですか?
西出:嫌ではないですし、それを周囲から言われないのが悩みでした。もし僕が仮に言われたら僕個人としては助かったと思います。以前は、自分の特性が周囲とズレていると強く認識していなかったので。
田中:松崎さんは、仮に自分の障害特性を自覚していなかったとして、それを周囲の人から言われることについてはどうです?
松崎:私自身が過去にそういう事を言われていたら助かっていたと思います。今では普段から夫と特性を言い合っています(松崎さんの旦那さんも発達障害)。私以外の話をすると、実際に上司や周りの友人から、「最近NHKでやっている発達障害の特集を見て、その特性がちょっと似てるんだけど診断を受けてみたら?」と言われて、アッピーに相談に来た方もいます。
発達障害の特性に合わせた働き方
田中:発達障害の特性に合わせた働き方というテーマに対して直接的にどういうものがあるのか、あと今ご自身が働かれていて、どういうアドバイスが出来るのか、話していただいてもよろしいでしょうか?
西出:そうですね。自分の特性を理解すれば、それにあった働き方は分かると思います。私の場合そこまでのハードルが高かったです。思うんですけれど、自分の働きづらさを理解して、さらに、それを周りに伝えるのも難しい。自分自身の理解とそれを相手に伝えること二つとも見えていないもんだから上手く伝わるはずがない。困りごとを他者との共有ができないのも一つの難点としてあるかなと思います。なので困ってる部分をメモしたり、「こういう部分で困りました」「怒られました」みたいなのを書いて、相手に話すだけでも違うかなと思います。
田中:今はどういう風に働かれてるんですか?
西出:今はその特性を理解している人と一緒に働いています。僕は発達障害の特性もそうなんですけど、ごく少数の人間としか関わる事が出来ないので、それを理解してくれる親戚の人と働いてる様な感じです。
田中:ありがとうございます。松崎さんはどうですかね。
松崎:自分の特性にまず気付いて、それに対して相手に伝えていくっていうこと何ですけど。光さんがおっしゃっていたみたいに、まず書き出してみることだと思うんですね。自分はこれが苦手だったっていうのを頭でぼんやり考えていても自分の得意不得意もぼんやりしてしまうので、まずは紙に書き出してみるのはお勧めします。
自分は何が不得意なのか、逆に出来ることは何なのか、っていうのを書き出してみます。そしてアッピーで言えば、発達障害のチェックシートに当てはめていき、その中で色々なアプローチや工夫について、自分に合った方法を探して活用していくっていうのが大事だと思っています。
実際に自分の特性にあった職場を探していく
田中:実際に自分に合った仕事を探す方法はありましたか?お二人はオープン(障害者雇用)の経験はないと伺っているので、クローズ(一般雇用)の文脈でお話いただけたらと思います。
西出:そうですね。その仕事を実際に探すときの観点が二つあって、仕事内容そのものと、あと人間関係です。自分の特性に対して、仕事内容と人間関係を照らし合わせながら、職場を探せれば良いのかなって思いますかね。例えば僕が事務をしようと思ったら中々難しい部分があって判子とか簡単に抜けがでちゃうと思います。
それは特性上、不得意な部分ではありますし、逆にチェック作業が得意で抜けが非常に少ない特性の人もいると思います。極端な例ですが、人間関係で考えれば、人と関わりをなくして働きたい人もいれば、雑談の多い職場で働きたいと思う方もいると思います。それは自身の特性ベースで考えればいいのかなと思います。
田中:ありがとうございます。松崎さんはどうですか?
松崎:発達障害の特性があると感じている方をざっくり分けると「常に変化を求める方」もしくは「常に同じことをしていると安心する方」の2タイプだと思っています。
一概には言えませんが、例えばASD(自閉症スペクトラム障害ASD:Autism Spectrum Disorders)で同じ事をずっと続けることが得意な方であれば、抜けや漏れが許せないため、ルールが決まっている事務作業を確実にこなすことができます。ASDの方のこだわりの特性が良い効果を生むパターンもあります。逆に常に変化を求めるタイプの方は、新しい人と出会い、新しい所に行きたいと思いやすいので、その行動力が経営者向きな場合があります。私はそのタイプ(注意欠如多動性障害ADHD:Attention Deficit Hyperactivity Disorder)です。事務管理の仕事は苦手なので、そういう仕事を選ぶことはありません。
ただし、不思議なもので自分が経営者であり、生き甲斐をもって好きでやっているのであれば、事務管理の仕事も割と出来るようになります。今、苦手な仕事である確定申告を必死にやっているんですけど、アッピーの事業を存続させるために頑張ってやっています。経営者であればなんでも自分で頑張ってやる必要はなくて、得意な人を連れて来てやってもらえば問題ありません。そこで「手伝ってー」と言う勇気があれば大丈夫です。そういった意味のコミュニケーション能力は経営者になり高まったと思います。
田中:具体的にお二方は、どういう風にお仕事は探されてきたんですか。
松崎:最初はファミリーレストランや化粧品のメイクの仕事が憧れで、やったけれどもできませんでした。その時「憧れている仕事ほど出来ないのだなー」と思いました。他にも大企業に勤めてOLとして働きたかったけれども、特性上、感覚が過敏なため、うるさいところや空気が汚いところもダメだったので都会で働くことは諦めました。憧れよりも相手にとって需要のある働き方の方が自分にとって生き甲斐になると思っています。私は仕事を憧れから入り、様々な失敗をしました。失敗があり、今があるので、結果的にはチャレンジすること失敗することは大事かなと思います。
田中:西出さんはどうですかね?ご自身の経験で探され方とか、今に至るまで経緯を含めて。
西出:僕の場合は、会社勤めが10日間しか続きませんでした。その時、誰も干渉してこない様な職場じゃないと無理なのかなって感じました。10日間で辞めた理由は、他者の干渉というか他者が良かれと思って関わってくれる事が僕にとっては苦痛でした。単純にほっといて欲しかったんです。そして出来るだけ人と関わらないで済むような仕事を探しました。その時、親戚にヘルプをして、人と関わらないで済むような仕事に就きました。
田中:対談終了のお時間が来てしまいました。ありがとうございます。最後に話をまとめさせて頂くと、特性に合った働き方に関して、まず自身の特性を客観的に理解すること。自分の特性を知ってそれを周囲に伝える。その中で伝え方を工夫する。仕事の探し方のベースは、特性に合わせて得意な事をする。そして得意なことができる環境を設定していくのが大事なのかなと思いました。良いか悪いのかはわからないのですが、お二人は多くの失敗をして、その経験を分析し、今に活かしていることが生きづらさから生きやすさへの転換に繋がっているのかなと思いました。
この度は、ありがとうございました。