就労移行支援事業所(以下、就労移行)は、障害者総合支援法に基づく福祉サービスの一つです。障害者総合支援法の制定時の名前は、障害者自立支援法でした。障害者自立支援法が施行されたのが平成18年であるため、今より10年以上の前の話になります。
この10年あまりの間に就労移行の数は増加しました。就労移行の増加の要因は様々考えることができますが、一つに民間企業の参入も認められている準市場である点が、事業所増加に繋がっていると想起できます。
現在では、全国に就労移行の数が3471箇所(平成29年の時点)あり、東京には328箇所(平成30年の時点)あります。都心部の場合、就労移行の増加と共に、その選択肢の多さから、悩まれる障害のある方も増えたのではないでしょうか。
*準市場:医療や福祉など公的サービスにおいて部分的に市場原理が取り入れられている状態の総称、擬似市場。
ここでは、就労移行の概要を簡単にまとめるとともに、就労移行を選ぶときのポイントについて記載していきます。
1、就労移行支援事業所について
⑴就労移行支援事業所の概要
就労移行は、障害者総合支援法に基づくサービスの1つです。障害者総合支援法は、誰もが住み慣れた地域での生活を実現するために、障害者に対して総合的な支援を行う法律であり、障害者自立支援法を改正・改称し、基本理念やサービス対象者の拡大などを盛り込んだ法律となっております。
就労移行は、一般就労を希望している方が知識や能力の向上を目的とする訓練の場であります。就労のサポートが手厚い訓練機関と考えるとイメージしやすいかもしれません。
東京には328箇所(平成30年の時点)の就労移行があります。件数が増加した結果、事業所ごとに多種多様なプログラムが提供されるようになりました。中には、障害種別を限定することで特色を出している就労移行もあります。
逆に、全ての障害種別の方を受け入れて、それが結果的に特色になっている事業所もあります。就労移行の訓練期間は原則2年間です。この期間で就職を目指すことになります。その中で、6ヶ月で就職が決まる方もいれば、2年で決まる方もいます。就職の決まるタイミングは様々です。利用料は原則無料ですが、前年度の収入によっては1割の利用料負担がある場合もあります。
⑵就労移行の支援員について
就労移行の支援員には、それぞれ基本的な役割があります。サービス管理責任者は障害のある方のアセスメントを取り、個別計画を作成し、就職までの道筋を立てます。基本的には、その計画を基に支援が実施されます。生活面で困ったことや薬の影響・体調不良等で起床出来ないことがあれば生活支援員に相談ができます。
作業スキルアップのために職業指導員が適切なアドバイスをくれます。就労支援員は適性に合った職場探しをサポートして、長く働き続けるために就職後も職場訪問を実施します。
就労移行では、最低人員配置数が決められています。例えば30人定員の就労移行に通所する場合、利用者30人に対して、1人のサービス管理責任者、職業指導員と生活支援員合わせて最低5人以上、就労支援員は2人以上が必要となります。つまり、30人定員の就労移行の場合、最低8人のスタッフの確保が必要となります。
就労移行の詳しい説明につきましては、以下のサイトを参考にしてください。
2、就労移行支援事業所の選び方
⑴就労移行の数
住んでいる場所によって、就労移行の選択方法が変わってきます。地域によっては通える距離に就労移行が全くない場合もあります。逆に通える距離に、いくつもある場合は、どこにすればよいか悩むこともあるでしょう。
東京では328箇所(平成30年の時点)の就労移行があり、特に23区内に集中しています。23区内であれば、比較的アクセスが良好であるため、神奈川、埼玉、千葉の方も東京の就労移行を利用するケースが散見されます。選択肢が多く、尚且つ、自力で探す場合は、まず絞込みの作業をする必要があります。
⑵候補の絞込みと検索情報
自宅からの距離
絞込みの観点は3つあります。まず第一に選んだ就労移行が自宅から通える距離にあるかどうかです。就労移行への通所が困難な場合は、通うこと自体が安定しないでしょう。通所に関しては、交通費がかかるため、金銭面の負担も考慮する必要があります。
市区町村によっては、就労移行までの交通費が支払われるケースもあります。交通費が支払われない場合でも、障害者手帳を持っていれば都営の電車やバスを使うことによって無料で通うことも可能です。交通費の助成に関しましては、住んでいる地域の障害福祉課に確認をして下さい。
対応の障害種別の確認
第二の観点は、自分の障害種別の対応をしているかどうかです。気に入った就労移行があっても自身の障害種別に対応をしていないこともあります。就労移行側が障害種別を絞って事業所の運営をしているか否か事前に確認する必要があります。
定員数の余裕
第三の観点は、今現在、定員に余裕があるかどうかです。受け入れのタイミングによっては定員が埋まってしまっている場合もあります。その場合は、就職者が出るまで順番待ちをするか、他の就労移行を新たに探すか、判断が求められます。
就労移行の絞込みに役立つ検索サイトは以下の通りです。
・独立行政法人福祉医療機構が運営する福祉・保健・医療の総合情報サイト「WAM NET」
・リタリコ仕事ナビホームページ「全国の就労移行支援事業所」
*リタリコ仕事ナビホームページ「全国の就労移行支援事業所」は、全ての就労移行の情報が掲載されていません。
少し違った切り口になりますが、就労移行の事業所を検索する際には「第三者評価」の結果を参考にしてもいいでしょう。
・とうきょう福祉ナビゲーションホームページ「第三者評価」
第3者評価とは
「質の高い福祉サービスを事業者が提供するために、保育所、指定介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)、障害者支援施設、社会的養護施設などにおいて実施される事業について、公正・中立な第三者機関が専門的・客観的な立場から評価を行う仕組みが、福祉サービス第三者評価です。」社会福祉法人全国社会福祉協議会ホームページ「第三者評価事業」より引用
3、選択に迷ったときの相談先について
就労移行を1人で探していくのは大変だ、と感じる方は住んでいる地域にある障害者就労支援センターに相談することをお勧めします。就労支援センターは、就労移行の情報を持っています。相談をすることによって、就労移行の選択の一助になります。
就労支援センターは、障害のある方の一般就労の機会を広げ、安心して働き続けられるよう、就労面と生活面の支援を一体的に支援することを目的としています。つまり、就労移行の選択の相談だけではなく、幅広い範囲で生活や就労について相談することが可能になります。東京の就労支援センターの情報は以下の資料から確認できます。
就労移行の情報を持っているのは、支援センターと記載しましたが、その他福祉機関、病院やクリニック、保健センターや区市町村の障害福祉課、大学、専門学校等も就労移行の情報を持っている場合があります。これらの機関とすでに関わりを持っている場合は、就労移行の紹介を受けることもあります。
4、利用開始までの流れと見学、体験の確認ポイント
⑴就労移行の利用までの流れ
ある程度の就労移行の絞込みが済んだら、次は実際に事業所の見学をします。事前に目星をつけた就労移行に資料請求をすると、当日は話がよりスムーズに進むかもしれません(就労移行によっては資料請求の対応していないところもあります)。
見学の際は、すでにサポートを受けている支援機関の支援員(主に就労支援センターの支援員)や家族の方も一緒に見学をすることが可能です。
見学をして気に入った就労移行があれば、体験通所の希望を出しましょう。体験期間は、ほとんどの場合1日〜1週間のところが多いです。体験通所は、障害のある方と就労移行側が本当に利用に適しているのかを判断する期間です。
利用が適していると双方から判断されれば、利用の手続きに入ります。自治体によって手続きが異なる場合があるため、詳しくは住まいの自治体の担当窓口(市役所障害福祉課、保健センター等)に問い合わせてください。申請は障害のある方本人が直接窓口に行き手続きとなります。
就労移行の福祉サービス利用にあたっては、住まいの市区町村から発行される「障害福祉サービス受給者証」が必要になります。受給者証の交付までは2~4週間程度かかります。認定調査の結果、サービス受給が認められると、「障害福祉サービス受給者証」が公布されます。サービス受給者証が交付された後、希望した就労移行と契約をして、利用開始となります。
⑵見学、体験の際に確認すべき事業所のポイント
就労移行の見学の件数については、選ぶ側の考え方によると思います。あくまでも所感ですが、一般的には2事業所ぐらいを見学する方が多いです。見学の件数が多い方で5事業所という方もいました。2つ3つの事業所の見学をして、その中で気に入った事業所があれば、体験通所をして、利用契約をしていくパターンが多いです。
就労移行を選ぶときの観点は4つあります。それは、内容、人、就労、定着です。この4つを頭に入れながら、見学・体験をする際に事業所の比較をするといいでしょう。
選ぶポイントその1、【内容】
就労移行は就職のための訓練をする場であり、そのためのプログラムが組まれています。見学・体験をして、そのプログラムが自分にあっているか考える必要があります。ここではまず、一般的な就労移行のプログラムを紹介します。
- 生活:定期面談、目標設定、健康管理、余暇支援等
- ビジネス:ビジネスマナー、PC訓練、軽作業訓練、資格取得訓練等
- コミュニケーション:コミュニケーション講座、SST等
- 就労:自己分析、応募書類の書き方、面接練習、企業への体験実習等
上記のようなプログラムに対して、グループ訓練、個別訓練を織り交ぜながら、段階的に就職へ導いいていく就労移行が多いです。このプログラム内容のベースに加えて、ITや介護等の業界に特化した訓練を展開している事業所や、脳科学・心理学のエビデンスを活用しがら訓練を進められる事業所も存在しています。ほとんどの場合、就労移行には事業所の理念があります。
プログラムは似たような場合でも理念が違うとプログラムの意味合いも変わってくるので、その辺りを確認しておくといいかもしれません。その理念に関しては、下記の【人】の観点にも関わってきます。
選ぶポイントその2、【人】
どんな支援員が働いているのかを把握しましょう。見学や体験をする時に、事業所内の支援員とは全員と話しをすることをお勧めします。なぜならば、選択した就労移行の事業所の支援員とは長くて2年間の関わりになるからです。
支援員と話をして安心感が持てれば、心地よく訓練を受けることができ、信頼関係を築くのも早いことでしょう。ただ、信頼できそうな支援を見つけたとしても、その支援員が異動する可能性があることや支援員の私情で退職するケースもあることは頭に入れておく必要があります。
加えて、どんな利用者が通所しているのかを把握しましょう。その辺りは、ぜひ体験を通して実感してください。ほとんどの場合、支援員と利用者がその就労移行の雰囲気を作り上げています。雰囲気がマッチングすれば安心して通所ができるはずです。
選ぶポイントその3、【就労】
就労移行によって就労活動の進め方や考え方違います。そのため、就労活動の進め方は自分に合っているのかを判断する必要があります。就労活動の進め方については各事業所に確認することをお勧めします。加えて、就職の決め方も以前に比べて、多様化が進んできました。具体的には以下の通りです。
- ハローワークを通して就職
- 民間の人材紹介会社を通して就職
- 就労移行が持っているルートで就職
就労移行が持っているルートとは、過去に利用していた方の就職先、と考えていいでしょう。同じ就労移行から何名も採用をしている企業もあります。一方で、企業側の受け入れのタイミング等が影響して、毎回違う企業に就職者を出している就労移行もあります。そのため、希望する就労移行の就労実績を確かめることが必要になります。大方の場合、就労移行のホームページに就労実績が載っていますが、大まかな数字・ケースになるので、さらに詳しく聞いてみるといいかもしれません。
そこで、毎年、どんなパーソナリティの方が、どんな職種や仕事内容に、何名程度就職しているのか、あるいは自分と似たようなパーソナリティの人が、どんな所に就職しているのかがわかれば、ある程度の就職の参考になるでしょう。
就労移行に通ったが、企業就労に繋がらないケースもあります。その場合は、以下のパターンが考えられます。
- 官公庁に就職(チャレンジ雇用等)した
- 福祉的就労(A型、B型)に繋がった
- 就労移行を途中で辞めた(就労移行自体がなくなった)
- 別の就労移行に移った
見学や体験の際に、上記の数字やケースの話を聞くことができれば、一つの参考になるかもしれません。
選ぶポイントその4、【定着】
就労移行が提示している職場定着率とは、ほとんどの場合「就職してから6ヶ月間、仕事を続けられたかどうか」のパーセンテージです。それよりも長い職場定着率を知りたい場合は直接確認してください。定着支援の方法に関しても直接確認する必要があります。定着支援の形は企業あってのことなので、もちろん人それぞれですが、おおよその職場訪問の頻度や面談の形式等は確認することができます。
加えて、土曜日に開所している事業所や平日の夜の時間帯に対応してくれる就労移行もあります。就労移行の定着支援の期間は法律上では6ヶ月です。6ヶ月後は他機関へどのような形で引き継ぎがされ、その後の就労移行との関係がどうなるのかを知れれば就職後の安心にもつながります。
加えて、平成30年から定着支援事業が始まりました。定着支援事業を利用すると、就職してから3年半サポートを受けることが可能です。定着支援や定着支援事業の詳細は以下の記事を参考にしてください。
「障害のある方の定着支援と定着支援事業と就労定着支援事業について」
まとめ
就労移行の選択には、「絞込み」と「比較」が大切になります。絞込みでは、まず、「通える距離にあるのか」「自身の障害は対応しているのか」「今現在定員に余裕があるのか」を確認します。比較では、「内容」「人」「就労」「定着」の四つの視点を提示させてもらいました。
就労移行選択の際には、選ぶ側の大切にしているポイントや優先順位があると思います。是非、その大切にしているポイントを軸にしながら記事に書いた観点も参考にしつつ、自身にあった就労移行を選ばれるといいでしょう。
今回記事にさせて頂いた就労移行支援事業所の選び方は、都心部を想定したものです。地方では選択できるほど就労移行の数がない、という別の状況もあるでしょう。難しい点ではあるのですが、そんな状況の中でも大事にするべきは、選択先で利用者が福祉サービスを平等に受けられているか否か、ではないかと感じております。