障害者雇用の水増し問題の影響もあり、各省庁・自治体の積極的な採用活動が進んでいます。
もし、障害者雇用制度を活用して省庁・自治体で働きたい場合、雇用形態が正規職員だけとは限りません。各省庁・自治体では「チャレンジ雇用」として求職者を募集しているケースもあります。チャレンジ雇用とは、期間が定められた非常勤職員を指しています。
ここでは、まず始めにチャレンジ雇用の制度を確認する中で、その制度の利用に向いている方、向いていない方を整理します。そして、チャレンジ雇用の制度を使い各省庁・自治体で働いた場合に意識すべきポイントを記載していきます。
1.制度の前提と背景
まずは、前提として、国の障害者雇用率と制度の背景についてみてみます。
(1)国の障害者雇用率
従業員が一定数以上の規模の事業主は、従業員に占める身体障害者・知的障害者・精神障害者の割合を「法定雇用率」以上にする義務があります。(障害者雇用促進法43条第1項)
民間企業の法定雇用率は2.2%です。従業員を45.5人以上雇用している企業は、障害者を1人以上雇用しなければなりません。(厚生労働省ホームページ「障害者の雇用 雇用する上でのルール」より引用)
若干ではありますが、国は民間企業より雇用率が高いです。今後はこの雇用率がさらに伸びていくと言われています。
近年の障害者関連の法整備は、「障害者権利条約」が根拠になっています。障害者権利条約は、2006年に国連で採択、2008年に発行されました。日本は2014年に同条約に批准し、同年に効力が発生するようになりました。簡単に日本との比較はできませんが、「障害者権利条約」に批准している先進国の障害者雇用率は、ドイツ5%、フランス6%と言われています。
(2)チャレンジ雇用の制度背景
平成18年4月に障害者自立支援法が施行され、障害者が地域で安心して暮らせる社会の実現のために就労支援が抜本的に強化されました。その後、平成19年2月15日に成長力底上げ戦略(基本構想)が打ち出され、「福祉から雇用へ」推進5か年計画を新たに策定・実施されました。その中で「チャレンジ雇用」の推進・拡大が打ち出されています。
2.チャレンジ雇用とは
前提を踏まえた上で、チャレンジ雇用制度の全体像について確認します。
①チャレンジ雇用の概要
チャレンジ雇用とは、知的障害者等を1年以内の期間を単位として、各府省・各自治体において、非常勤職員として雇用し、1〜3年の業務の経験を踏まえ、ハローワーク等を通じて一般企業等への就職につなげる制度を指しています。
平成19年12月25日に策定された、新たな「重点施策実施5か年計画」(障害者施策推進本部決定)において、平成 20 年度から全府省で実施されています。なお、非常勤職員の雇用は各府省の予算の範囲内において、それぞれの業務の必要性も考慮しながら対応するため、チャレンジ雇用の期間も1〜3年の有期雇用になっています。(「非常勤職員としての雇用(チャレンジ雇用の実施)より引用(一部修正)」
②対象者、条件
チャレンジ雇用の対象者は、知的障害者等となっていますが、特段に厳しい縛りはなく、身体障害者手帳・精神保健福祉手帳を持っている方も制度を利用できます。チャレンジ雇用として働く場合、制度自体が一般企業に繋げる目的を内包しているため、期間が1〜3年までに定められています。ほとんどの場合、試用期間後は1年の契約更新となります。
この定められた期間内に企業で働くための基礎を培いながら、就労の実績を積み上げていきます。
チャレンジ雇用制度を利用して、3年以内で企業就労につながる方もいれば、企業に繋がらず、就労継続支援B型、就労継続支援A型、就労移行支援事業所を利用する方います。チャレンジ雇用は省庁・自治体の中で働くため、事務補助等の業務が多くなります。
結果的に一般企業につながるための求職活動をする際には、ほとんどの方が事務や事務補助の業務を希望することになります。
③採用方法
基本的に各省庁・自治体は、ハローワークに求人を依頼します。そして、ハローワークを通して、障害のある方に求人が紹介されます。
就労支援機関(各障害者就労支援センター・就労移行支援事業所)のサポートを受けている方の場合は、支援機関から求人の情報が提供される場合もあります。採用方法は、面接だけで採用を決める場合もあれば、雇用前実習(3〜5日)をしてマッチングを図り、採用を決める場合もあります。
④省庁・自治体で働く際の一般的な仕事内容
チャレンジ雇用で働く場合、事務補助の業務をすることが多いです。この事務補助の業務は、正規職員が処理する事務作業のサポートがメインとなります。各省庁・自治体によっては多少の誤差はありますが、代表的な仕事内容は以下の通りです。
- シュレッダー
- コピー機の紙の補充
- データ入力
- 帳合
- 郵便物の仕分け
- 発送作業
(チャレンジ雇用の求人票を参考)
参考:
・NHKハートネット福祉情報総合サイトホームページ「なぜ起こった?国の障害者雇用水増し問題」記事公開日:2018年10月22日
・外務省ホームページ「障害者の権利に関する条約(略称:障害者権利条約)
3.チャレンジ雇用の制度を活かしていく方法
チャレンジ雇用の目的には、上記の仕事を長期的にこなすことによって、次の企業就労に向けて実績をつける意味合いもあります。そのため仕事内容に関して、難易度の高い業務内容をすることは、ほとんどありません。となると、働く中で仕事内容に大きな変化を求める方には、向いていないかもしれません。
障害者手帳を持っていれば全ての方にチャレンジ雇用で働くチャンスがありますが、制度の設計や意味合いを理解していないと、そのメリットを十分に活かす事ができません。そこで、この章では、前述した内容を踏まえ、チャレンジ雇用に向いている方と向いていない方をまとめていきます。
(1)チャレンジ雇用の活かし方のポイント
①チャレンジ雇用に向いている方
- 就労経験が浅い方
- 今まで企業で働いた経験が無い方
- 特別支援学校卒業すぐの方
- 長期間仕事から離れていた方
- 事務補助や事務職を希望する方
- 自分自身の得手不得手を理解していない方
- 働くことに対して自信がない方
- 長く働くための準備が整っているか不明瞭な方
- 就職活動をしているがなかなか企業に繋がらない方
- ルーティンワークが苦にならない方
②チャレンジ雇用に向いていない方
- 企業就労の経験が多くある方
- 無職の状態がない方
- 事務職以外の職種を希望する方
- 自分自身の得手不得手を理解している方
- 働くことに対して自信がある方
- 長く働くための準備が完璧に整っている方
- 自分の実力次第で様々な業務にチャレンジしたい方
③チャレンジ雇用制度を活用する際の心構えと準備
チャレンジ雇用は、賃金を貰いながら、企業就労を目指すことのできるステップアップのための制度です。その制度を最大限に活用するためには、当人が毎日勤務し続けることです。勤務をする前提として、働くモチベーションを保ち続けることがポイントになります。
そのため、働く前に「なぜ働きたいのか」を一度自身で確かめてみることをおすすめします。もちろん、体調不良等により職場を休むこともあるかもしれませんが、どのようなリカバリーをしたら職場に復帰できるのか、という思考を持つことが結果的に企業就労に繋がります。
各省庁・自治体で働く場合、特に男性はスーツ着用を求められることが多いです。そのため、事前にスーツ、Yシャツ、ネクタイ、革靴、それに適した鞄を準備する必要があります。
④定着支援を利用して勤務をする
定着支援とは、働きながら支援機関からサポートを受けられる状態を言います。定着支援を受けるためには、基本的に現在2通りの方法があります。
1、自身の住んでいる地域の障害者就労支援センターに登録をする。
障害者の一般就労の機会を広げるとともに、安心して働き続けられるよう、就労面と生活面の支援を一体的に支援するため、「区市町村障害者就労支援事業」及び「障害者就業・生活支援センター事業」があります。
2、就労移行支援事業所(以下、就労移行)を活用する。
就労移行は就職を目指す方のための通所施設です。通所期間は原則2年です。2年間の中で就労に向けて様々な訓練をします。就労移行を通して就職を決めた場合、そのまま定着支援が受けられます。平成30年4月より「就労定着支援事業」が法整備されています。
4.チャレンジ雇用、その後
チャレンジ制度活用中、もしくはその後には下記のような就労ステップを考えることができます。
①働きながらの転職活動
チャレンジ雇用で働く方は、職務経歴に空白の期間を作らないためにも働きながら求職活動を行う方がほとんどです。そのため、企業面接やハローワーク主催の面接会に参加をする際には、有給休暇等をうまく使いながら、求職活動をすることになります。
企業の採用で雇用前実習を行う場合もあるので、何日か連続して仕事を休まなければならないこともあります。チャレンジ雇用の勤務に慣れ、次のステップとして求職活動を始めたい場合は、転職活動の状況の報告や今後の見通しについて、上司に相談しておくとスムーズです。
②チャレンジ雇用後に企業につながる方
チャレンジ雇用は企業就労に繋げるための雇用形態です。しかし、中にはチャレンジ雇用終了後も企業に繋がらない方もいます。
そのような場合は、前述した通り、就労継続支援B型、就労継続支援A型、就労移行支援事業所に繋がるケースがほとんどです。企業に繋がる人の特徴は、長期的な観点で職業準備性が整っている方です。
職業準備性とは、働く上で必要とされる基礎的な能力を指します。長く働き続けるためには「健康管理」「日常生活管理」「対人技能」「労働習慣」「職業適性」の能力が必要となります。
簡単に言うと、毎日健康に職場へ通勤ができて、長時間(4~6時間程度)働く体力があり、協調性を持ちながら報告連絡相談ができ、会社のルールを守れて、自分自身について理解している状態です。もちろん障害の特性上、全ての項目の準備性を整えるが難しい方もいるはずです。職業準備性はあくまでも目安であり、これが完璧にできないと就職ができないと言う基準ではありません。
あくまでも働くための一般的な指針として捉える必要があるでしょう。チャレンジ雇用を通して、自分の強み・弱み、得意作業・苦手作業、合理的配慮、力の発揮できる職場環境、好ましい周囲との関わり方などを分析し、企業に伝えることができれば、就労に繋がる可能性は高まります。
まとめ
チャレンジ雇用は、企業就労に繋がるための移行期間でもあります。自分の職業準備性について、働きながら長期的に確認して行くことは、結果的に企業就労に繋がるための大事なポイントになっていくでしょう。
チャレンジ雇用で働いている場合は、企業就労へ繋がるための目標設定が重要となります。
ただし、自分一人で目標を設定して行動を起こすことに自信がない方や慣れていない方は、前述した定着支援のサポートを受けながら、働いていくことをお勧めします。そのサポートを活用しながら、就職活動を進められれば、企業就労への可能性も見えてくるはずです。